DISCOGRAPHY

筑前琵琶 川村旭芳作品集T〜母娘合作集〜

CD 筑前琵琶 川村旭芳作品集T〜母娘合作集〜 収録曲解説

サインパンゼごう ひょうりゅうたん


1.『四仁伴載号漂流譚』〜海は人をつなぐ母の如し〜

福井県小浜市に伝わる韓国船遭難救護の記録を基にしたノンフィクション作品。
「泊(とまり)の歴史を知る会」大森和良氏からの依頼を受け、
2004年(平成16年)に創作しました。

1900年(明治33年)1月12日、露国ウラジオストク沖で遭難した一隻の韓国船が、
若狭湾の漁村、泊の沖合に漂着しました。
泊は、わずか百人あまりの小さな集落。
村人の懸命な救護活動によって、93人の韓国人全員が無事に故国へ帰りました。
言葉も通じない韓国人と村人は、八日間の滞在を通じて心を通わせ、
親子兄弟のように別れを惜しみました。
当時、日清戦争と日露戦争のはざまで、国家間は緊迫した状態でしたが、
遭難救護を通して出会った民衆同士は心と心をつないだのです。
(絵本『風の吹いてきた村』〜韓国船遭難救護の記録〜より)

大韓帝国の時代、韓国併合の十年前の出来事で、
救助された韓国人達は、現在の北朝鮮にあたる地域の人々だったそうです。
百周年にあたる2000年(平成12年)、日韓の有志によって泊の浜に建てられた記念碑には、
「海は人をつなぐ母の如し」という言葉が、日本語とハングルで刻まれています。
世界は一つ・・・いつの日か、悠久の平和が訪れることを願い、
この琵琶曲を語り継ぎたいと思います。

2004年(平成16年)5月8日 小浜市泊「海照院」(救護活動の仮事務所になった寺)にて初演

泊の記念碑
泊の記念碑

◆下記催しのチラシもクリックしてご覧ください。
2016年9月19日 「東アジア文化都市2016奈良市」市民連携事業
小浜市に伝わる韓国船遭難救護のお話 〜海は人をつなぐ母の如し〜
「泊の歴史を知る会」大森和良さんの講演 と 琵琶弾き語り演奏『サインパンゼ号漂流譚』
於:学園前ホール(奈良市西部会館市民ホール)


2.『空海讃歌』〜入唐千二百年記念〜

萩の寺として知られる地蔵院萩原寺(香川県観音寺市)は、
四国別格二十霊場の第十六番札所で、807年に弘法大師が建立したそうです。
境内に建つ「世界一観」と刻まれた石碑は、修養団捧誠会が寄贈したもので、
毎年「和石祭」という式典が行われています。
この琵琶曲は、空海の入唐から千二百年にあたる2004年(平成16年)の式典での
演奏依頼を受け、創作しました。(初演時は終盤の歌詞を式典に沿った内容で演奏。)
宗派を超えて今なお「お大師さま」と親しまれ敬われる弘法大師空海。
そのあまりに偉大な功績は、わずか数十分の琵琶曲で語り尽くせるものではありませんが、
千二百年の昔に思いを馳せ、若き空海の活き活きした姿を思い描いて頂ければ幸いです。

2004年(平成16年)10月31日 香川県「地蔵院萩原寺」にて初演
2005年(平成17年)6月15日 高野山「青葉祭」にて奉納演奏


3.『堂崎観音堂悲話』〜宇和海落武者伝説〜

四国は潮の流れによるのでしょう、平家の落人伝説が各地に伝わっています。
その一つ、愛媛県宇和島市の観音寺に伝わる哀れな物語を、
山崎忠司住職より依頼を受け、2006年(平成18年)に琵琶曲として創作しました。
節を付けて歌う部分と、節を付けずに語る部分を交互に配した、
一般的な琵琶曲と少し違う、浪曲のような手法を取り入れてみました。
毎秋、観音寺境内にて「琵琶の夕べ」と題した演奏会を開催して頂き、
この曲を演奏しています。
一ノ谷、壇ノ浦、宇和島を結ぶ壮大な歴史ドラマ。
CD収録を楽しみにして下さっていた地元の皆様、大変長らくお待たせ致しました!

2006年(平成18年)10月8日 宇和島「観音寺」にて初演

堂崎観音堂の写真 小島の写真
堂崎観音堂 堂崎からの風景

4.『阪神・淡路大震災 犠牲者追悼式典に寄せて』

1995年(平成7年)1月17日、未曾有の大地震が阪神地区を襲いました。
「阪神・淡路大震災 被災者ネットワーク」を中心とするボランティア組織6団体が
主催する追悼式は、六千人を超える直接的な犠牲者をはじめ、
仮設・復興住宅での孤独死、殉職者、県内外避難者、ボランティアなど、
全ての犠牲者の冥福を祈る、声明と音楽による法要です。
震災から八年目にあたる2003年(平成15年)の式典での演奏依頼を受け創作。
以来ほぼ毎年、この追悼曲を献奏しています。
私自身も神戸に生まれ育ち、あの震災を経験しました。
いにしえの琵琶法師らにより『平家物語』が語り継がれてきたように、
現代に生きる琵琶奏者として、いつまでも祈りの響きを捧げ続けることが、
せめてもの供養ではないかと感じています。
今なお各地で災害は後を絶ちません。まるで、人間の力の及ばない自然の恐ろしさに、
もっと畏敬の念を抱かねばならないと警告されているかのように・・・。
筑前琵琶のルーツは、あらゆるものに神が宿るという日本古来の信仰に繋がります。
そのような心を大切にしてゆきたいと思います。

2003年(平成15年)1月17日 神戸市勤労会館大ホールにて初演

奇しくも、このCDの完成直前に、世界最大規模の東日本大震災が発生しました。
犠牲になられた方々のご冥福をお祈りし、被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

  前のページに戻る



 

background